今回は卵巣刺激法について記載していきたいと思います

生殖補助医療(ART)では、質のいい受精卵を作るため、卵子を多めに確保する必要があります

そのための卵巣刺激は、一般的不妊治療でのホルモン療法よりもハードになります

実際には個々の卵巣の状態に合わせた様々なバリエーションがあります

ARTの卵巣刺激は

① 自然な排卵を抑える

② 複数の卵子を育てる

③ 卵子が十分成熟したところで人為的に排卵を促して採卵する

という一連の流れを、すべてホルモン薬でコントロールしながら行うのが基本です

①で中心的な役割を担うのは

GnRHアゴニスト(商品名:スプレキュア、ナサニールなど)と呼ばれる点鼻薬

投与すると、脳の下垂体からの卵胞刺激ホルモン(FSH)と黄体化ホルモン(LH)の分泌が一時的に高まる『フレアーアップ現象』が起こります

その後も継続して使い続けますと、下垂体からのホルモン分泌が抑制され卵子の成熟や排卵の引き金になる『LHサージ』を止めることができます

自然な排卵機能を抑えた上で、卵胞を成長させるために、ヒト閉経ゴナドトロピン(hMG)を毎回注射して複数の卵胞を成長させます

卵子が十分に成熟したところで、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)を注射して人為的にLHサージを引き起こし、36~38時間後に採卵するという流れになります

採卵刺激のやり方には、いくつものバリエーションがあります

一般にスタンダードとされるのは『ロング法』と呼ばれる方法

採卵する周期の前周期の黄体期半ばから点鼻薬を使用して、内因性(自前)のFSH、LHをほぼ完全に抑えた上で、月経開始3日目からhMGを7~10日間毎日注射していきます

卵胞が16~18mmに成熟した段階で、hCGを注射して、約38時間後に採卵します

ARTにおける妊娠率は、様々な卵巣刺激法のうち、ロング法が最も高いとされています

ただし、点鼻薬をhCG注射の直前まで使うので、使用する薬の量は多くなります

また、ロング法が向かない人もいます

例えば、高齢で卵巣機能が低下している人などは、ロング法で卵巣を刺激しても反応が悪く、十分な数の卵を採卵できなかったり、採卵がキャンセルになることもあります

こうした場合、次善の策として、点鼻薬を使う機関を短くした『ショート法』を勧める医療機関が多いようです

これは、GnRHアゴニスト製剤を投与して3日後くらいに起こる、フレアーアップ現象を利用して卵胞を育てる方法

採卵する周期の月経開始後から点鼻薬を用いればいいので、使用する薬の量はロング法に比べてかなり減ります

しかし、フレアーアップの際、一時的に高まる内因性のLHが、卵の質を悪くする可能性が指摘されています

自然な排卵を抑える薬剤として、GnRHアゴニストの代わりにGnRHアンタゴニスト(海外での商品名:セトロタイド)の注射薬を用いる医療機関も、最近増えてきました

GnRHアゴニストとは異なり、フレアーアップ現象を起こさずに、内因性のFSHやLHの分泌をすぐに抑えます

通常は、採卵する周期の月経2日目からまずhMG注射を始め、6日目からGnRHアンタゴニストを、hCG投与日まで3~5日間毎日注射します

hMGの投与期間がGnRHアゴニストを使った場合よりも短くなり、総投与量が減るので、通常の卵巣刺激法では卵巣機能にダメージを受ける恐れがある高齢の女性に向きます

ロング法やショート法では採卵がうまくいかなかった人に使う場合もあります

治療成績はロング法と同じぐらいの様です

ただ、日本では未認可の薬なので、現状は医師が個人輸入して希望者に使っている段階です

将来認可されれば、ARTにおける卵巣刺激の主流になっていく可能性があります

このように卵巣刺激には『型』がいくつかありますが、実際に使われる薬の種類や量は、一人ひとりの卵巣機能などに応じて調整します

例えば、hMG製剤の1回の注射量は、35歳未満の女性では一般に300単位です

しかし、経膣超音波検査で卵胞数が数十個もあることがわかった場合、もし300単位を毎日注射したら、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)を引き起こしてしまうかもしれません

逆に、確認できた卵胞数が2~3個と極端に少なかった場合、平均量のhMGを投与しただけでは採卵に至らないことも実際にあります

こうした個人差を、治療中はもちろん、治療に入る前からチェックして、薬の投与法を決めるのが医師の腕の見せ所になると思います

卵巣刺激は多かれ少なかれ体にダメージを与えるので、回復するまでに2周期ほどかかるのが一般的です

うまくいかなかった場合は、その原因を考えていく必要があります

同じ卵巣刺激法を漠然と続けても成果は期待できません

中国医学では子宮内環境を良くして(血流を良くする、子宮内膜を分厚くしていく、子宮内を温かい状態にする)行く事で、人工授精、体外受精、顕微授精をうまく生かせる方法があります