今回は、生殖補助医療について記載していきます

体外受精顕微授精など、体の外で卵子に人の手を加える治療法を『生殖補助医療(ART)』と呼びます

通常、ARTの対象となるのは、卵管閉塞無精子症など、一般的な不妊治療では子どもを持つことが困難とされる場合です

しかし実際は、不妊期間が長い、女性が高齢といった理由でも、ARTを選択する夫婦が増えています

世界初の体外受精児が生まれたのは1978年、英国でのことです

当時は、試験管ベビーなどと呼ばれ、日常からかけ離れた世界の話のように伝えられました

しかし今では、日本で生まれる子どものうち、およそ100人に1人がARTによって誕生します

2002年の日本産婦人科学会の集計では、ARTによる年間出生児数は1万5223人

これまでの累積出生児数は、10万人を超えています

こうした状況の中、ARTに対する抵抗感は徐々に薄れてきているようです

ARTの成績は、医療機関によって大きく異なります

大きく異なる要因のひとつは、施設間格差です

ARTを行う施設のチェックポイントとして、特に重要なのが、卵子や精子を扱う培養室(『ラボ』と呼ばれます)の内容です

例えば、卵子や精子を凍結する設備です

ARTを受ける人の体にかかる負担を軽減するためには欠かせないものです

これを持たずにARTを実施している施設が案外多くて、この点は最初に確かめた方がいいでしょう

また、ARTの実施数が極端に少ない施設でも、ラボの品質管理が低下する場合が考えられます

ラボの中身を外からうかがい知ることはなかなかできませんが、近年品質管理のひとつの目安として『ISO9001』認証が注目されています

これは、その組織が品質を保証するための活動をきちんと行っているかどうかを、国際的な第三機関(ISO)が審査するものです

ISO9001認証の有無は、医療機関のホームページなどに表示されています

また、体外授精と顕微授精を合わせた年間の実施回数が200~300回以上であることが、技術管理の面で信頼できるかどうかの目安になるとの意見も多く聞かれます

卵子や精子に人の手が加わるARTでは、生まれてくる子どもの障害に対する不安を持つ人も少ないくないようです

この点に関する研究は世界中で行われていますが、いまだに明確な結論は出ていません

二分脊椎などの神経管閉鎖障害や心奇形、口蓋裂といった先天性障害の発生率については、自然妊娠と変わらないとする研究結果が多いようです

一方でARTによって増加する傾向のある異常があることも知られています

そのひとつが、一絨毛性双生児

二卵性の双子なのですが、通常とは異なり、ひとつの絨毛(胎盤)を共有しています

日本では2003~2004年に5組(いずれも男児と女児の双子)の一絨毛性双生児が生まれています

一絨毛性双生児は、栄養を供給する胎盤を共有しているため、互いに混じり合い、2通りの造血細胞(血液を作る細胞)を持つようになります(血液キメラ)

特に胚盤胞を複数個、移植した場合に発生しやすいとされますが、胚の培養技術など他の要因が関係している可能性もあり、真の原因は特定できていません

また、遺伝子の突然変異で起こる病気(インプリンティング病)もARTでは増えるようです

英国で行われた研究では、ベックウィズ・ヴィーデマン症候群などの自然妊娠での発生率は0.9997%なのに対し、ARTでは149組中6組(4%)で発生したと報告されています

このほか、ARTで多い多胎妊娠では、流産・早産や低体重児の出生などのリスクが高まります

予防には、移植する胚を1個に限定するのが第一ですが、妊娠率は低下します

自分たちにとってのリスクとベネフィットは何か

ARTを受ける際は、常にこのことを念頭に置いて治療法を選択する必要があると思います